経済学部公開講座報告
2024年度駒澤大学経済学部公開講座として「協同で働く若者たちの挑戦」と題し、アーバンズ合同会社の田井勝氏にお越しいただき、「不平等化と平等化に葛藤する労働者協同組合型経営」についてご講演いただきました。
労働者がそれぞれの力を持ち寄って協同し、主体的に働く「労働者協同組合」という働き方が注目されています。今回、ゲストとしてお越しいただいた田井氏はアーバンズ合同会社の経営と活動を通じて、共に働く仲間との対話を重ね、日々悩みながら、民主的運営と平等化のプロセスを実践されてこられました。この実践を一緒に紐解くことで、協同で働くこと、対話すること、そして、日本の労働者協同組合の発展についても考える機会となりました。
以下は現代応用経済学科ラボラトリ学生広報委員の藤田海光による当日の報告です。
アーバンズ合同会社の独特な経営実践を学ぶことは、自分としては想定していなかったような世界のご講話であり、非常に興味深かったです。
まず、ご講演の主な内容は「会社経営における民主的な運営と平等の担保」が主要なテーマでした。本テーマを掘り下げる「平等」に関する視点は2つ提示されました。
平等の担保として考えられるものの1つ目は、「メンバーが形式的に平等であるための取り決め」です。例えば、制度やルール、形式的なもののことなのですが、しかし、これらは「人間関係の上に成り立つ実質的な平等」を担保?実現するものではないとお話しいただきました。
2つ目は、「メンバーの関係性に基づいて実質的に関係者が平等であると感じることができる実践」です。こちらは形式的なものではなく、実質的で感情的な意味での平等を目指すものです。たとえ表面的、数字的には不平等であっても、人間?構成員(仲間)がその関係性の中で平等的であると感じられるものの重要さについてお話いただきました。
事例としてご紹介いただいたアーバンズ合同会社の簡単な紹介をします。アーバンズ合同会社の社員数は8名、事業内容は運用型(WEB)広告代行、エジプト料理(コシャリ)飲食事業、シーシャ(水煙草)事業、研究サポート事業、中古車販売等をそれぞれの責任者が運営されています。田井さんは「それぞれが『やりたいこと』をする、好きな仲間が集まっている」という表現されていらっしゃいました。
しかし、仕事に種類があるように、労働賃金や事業収益には高低があります。アーバンズ合同会社においてもこの事業部門(社員あるいは仲間)間のバラツキの平準化?平等化が大きな課題となりました。その解決策として、(私が最も驚いたところなのですが)アーバンズ合同会社では社員自身の給額を自身で決めているということでした。
また、設立当初は月2回の定例会議など、平等を担保するための形式的な決まり事を実施したところ、話し合いの得手不得手、仲間と衝突したくないという人間的な感情があり、継続的に会議を続けていける意義を見出すことができなくなったということでした。仲間の本音、平等に関する考え方は公の会議時点では表面化することはなく、一対一の対話を通じてでなければ本音(平等に関する考え方)を吐露することはないといった気づきもあったそうです。
私はアーバンズ合同会社の目的について、「仲間との良好な関係を続けていきたい」、「やりたいことができる(やりたくないことはしなくてよい)」場所の構築」ということであると理解しました。それは、企業規模の拡大や売上の向上などの、私が通常想定するような企業のあり方とは決定的に異なるものであり、衝撃的な事実でした。
そこで、私は「目的や目標が無くてもいいのでしょうか、やっていけるのでしょうか」という質問をしました。この質問に対し、「個々の意思を尊重した経営方針なので、会社の目標を定めてしまうと平等が崩れてしまう。また、実際には目的や目標を持っている人が大多数を占めているわけではなくて、実際には何がしたいのかわからない人の方が多いのかもしれない。ただ、そんなふうに『やりたいこと』がわからなくても『やりたくないこと』はわかっている人もいる。私たちは『やりたくないことはやらなくていい』と考えている」とお答えいただきました。私は公開講座の受講を経て、これまで見聞きしてきた世界とは異なる多様な企業のあり方、人間の生き方があることを学びました。また、「平等」という考え方や概念に対しても、絶対的な正解はないという認識を得ることができました。