DATE:2016.06.24仏教行事のおはなし
涅槃会
仏教学部 教授 金沢 篤
カレンダーには2月15日(月)、「涅槃会法要」とある。「涅槃会(ねはんえ)という法要(ほうよう)」の意味。 2500年ほど前のインド、クシナーラーのサラノキ(沙羅双樹)(さらそうじゅ)の林で80歳で亡くなった釈尊の命日に営まれる仏教行事のことだ。過去分詞より転じての名詞nibbāna(ニッバーナ)(<nirvā?a ornirv?ta)の音訳語の「涅槃」とは、「消火(しょうか)」。「成仏すること」の意味で用いられる。29歳で出家、35歳でブッダガヤーの菩提樹下で成仏(じょうぶつ)した釈尊の、45年間の布教活動を経ての死は、いわば二度目の涅槃ということになる。この涅槃を、完全な[真の]涅槃と考え、「般涅槃 (はつねはん)parinibbāna」、さらに誇張して「大般涅槃(だいはつねはん)mahā-parinibbāna」と呼ぶ。真の寂静(じゃくじょう)の実現たる死とは、「煩悩の火」ならぬ「生命の火」の涅槃である。
釈尊の臨終を目の当たりにした弟子のアヌルッダの詩節が残されている。「心の定まれるかかるお方には、呼気も吸気もなかった。煩悩を離れた聖者は、寂静を得て身罷られた。[師は]ひるむことのない心によって、苦楽を、忍受された。燈火に対する消火/涅槃のように、心に解脱が生じたのである」の意味を深く噛みしめたいものである。
※ 本コラムは『学園通信320号』(2016年1月発行)に掲載しています。掲載内容は発行当時のものです。