9つの人生-現代インドの聖なるものを求めて-(ウィリアム?ダルリンプル 著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2024.12.01

書名 「9つの人生-現代インドの聖なるものを求めて-」
編著者 ウィリアム?ダルリンプル 著
訳者 パロミタ友美
出版社 集英社新書
出版年 2022年
請求番号 162.2/105
Kompass書誌情報

人生はままならない。それがインドともなれば尚更である。
現代のインドは、悠久の伝統と急速な経済発展という両極で激変し、そこで安穏と生き抜くことは困難を極める。しかしそこにこそ他に類を見ないほどの強靭な生き方が体現される。本書『9つの人生』は、激動の現代インドで信仰に生きる九人の壮絶な人生を描いたノンフィクション作品である。
宗教的自死(サッレーカナ)を選択するジャイナ教の尼僧の人生や、民族紛争に巻き込まれて参戦を余儀なくされる仏教僧の人生など、予想を超える目まぐるしい展開に読者は時間を忘れることだろう。
そして読了後にはある疑問が浮上する。想像を絶する逆境の中で逞しく生きる彼らの原動力は何なのか。彼らは何に光を見出したのか。そこに思いを寄せたとき、一見我々とは無関係のようにみえる彼らの人生に、じつは我々に通底するものが厳存することに気づかされる。
その気づきを得るための補助線として併読を薦めたい一書に、谷川嘉浩『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(ちくまプリマ―新書、2024年)がある。両書に共通する焦点は、私たちを内側から突き動かす「衝動」である。それは制御し難く、成功、名誉、営利、効率、ときには命すらも犠牲にすることを厭わせないものである。良し悪しはさておき、それは自身の人生を狂わせることもある。
谷川はその衝動の正体を、さながら推理小説のように繙いて、極めて高い解像度で知的に描き出す。いっぽう『9つの人生』は、自身の内なる衝動に身を捧げた9人の人生を読者に疑似体験させ、その衝動を感覚的?身体的に私たちに気づかせてくる。
本書を手にした読者は、逆境の中で逞しく生き抜くためのヒントを得るだけでなく、人生において私たちを内側から衝き動かし続ける「駆動力」の存在に気付かされるであろう。

仏教学部 准教授 加納和雄 

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